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松平盟子が主宰する歌誌「プチ★モンド」が昨年創刊二十周年を迎えた。松平を「ウィキペディア」で調べると、「美貌の歌人」と記されている。歌で勝負する歌人の容姿をとり沙汰することは避けるべきだが、彼女の場合は美しい方だとここに書いても、失礼にはなるまいという妙な確信がある。彼女は全身を世界に投げうつようにして活躍している。人々の針のような眼差しの前に、身体を晒してきっぱりと立とうとしている。そんな彼女の覚悟を私は信じているからである。そこには彼女が研究を深めるあの與謝野晶子が「君死にたまふことなかれ」を発表した覚悟にも通うものがあろう。その覚悟の底には、真率な意地とたゆまぬ努力とが脈打っている。
一年間のパリ滞在はいうに及ばず、文楽の機関誌や入門書を刊行し、自主公演を行う冒険にも、並々ならぬ覚悟が要る。歌誌のタイトルはフランス語で「小世界」の意だが、星印★は「いくつ歳を重ねていっても失いたくないロマンチシズムの表れ」を指すと説明がある。この「ロマンティシズム」は「眼差しへの覚悟」と言い換えても差し支えないのではあるまいか。
松平は国際的に著名な権威あるワインソサエティー「ブルゴーニュ利き酒騎士団」から正式に叙任を受けるほどのワイン好きで、その知識も半端ではない。この騎士団のモットーは「ワインさえあれば決してむなしいことはない」である。この「ワインさえあれば」というときの「ワイン」に相当する、伝統の厚みを持つ美しさと味わいを求めて、彼女は体当たりで幾つも小世界を内外に渉猟しているように見える。その小世界をつなげつつ、彼女の短歌は、これからも大きく深く芳醇な香りを放ってゆくのであろう。最新の第十歌集『愛の方舟』(角川書店)にある「いつまでも背にある夕日五十代は峰打ち受けし鈍痛をもつ」という歌の身体性の深まりに、やはり私は「覚悟」を見る。
昨年の創刊二十周年記念シンポジウムでは、坂井修一の司会のもとに、米川千嘉子が久山倫代、浦河奈々、赤星千鶴子、中山洋祐らの歌を引いて論じた(秋号掲載)。「プチ★モンド」の歌風には「かりん」に近いものがあるだろう。年末に出た冬号巻頭には、馬場あき子が「二十周年おめでとう」という素敵な祝いの文を寄せて、次のように述べている。「文楽に身を委ねたことも、パリに一年を過ごしたことも、母子のめぐりあいに宥し宥される絆をみつめあったことも、これからの松平さんを大きく豊かにしてゆくことだろう。それは「プチ★モンド」の発展とかかわりないことではないと思われる。」やはり全身歌人である馬場の、松平を見守り続ける眼差しの温もりに、私はいたく感じ入った。
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