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 左右社から『海のうた』『月のうた』という現代短歌アンソロジーが連続で刊行された。比較的若い歌人百人から一首ずつ短歌が選ばれ収録されている。つまりテーマの決まっている百人一首のような本である。重版も何度かかかっており、短歌の入り口として既に人気のシリーズのようだ。今後さらに第三弾、第四弾と続いていくらしいので、いつニッチなテーマに踏み込むかと個人的に楽しみにしている。『海のうた』の帯には五島諭の「海に来れば海の向こうに恋人がいるようにみな海を見ている」の一首が、『月のうた』には永井祐の「月を見つけて月いいよねと君が言う  ぼくはこっちだからじゃあまたね」の一首がそれぞれ引かれている。ポストニューウェーブと呼ばれがちな世代が明確に先頭に立たされていることを思うと、そこをてっぺんとして、以降の世代の同時代の短歌作品を、いま短歌に興味ある読者へ届けようとする編集の意図がよく伝わってくる(五十代以上の歌人の短歌ももちろんそれなりの数ある)。
 『海のうた』『月のうた』に重なって呼ばれている人もいるので、合計二百人が参加しているわけではないのだが、それでも相当な数の歌人の名前をこのアンソロジーでは目にする。にもかかわらず、私が素朴に思ったのは、あの歌もない、あの歌人もいない、ということだった(これは文句ではなく、むしろ豊かさの話です)。オールタイムベストの「海」「月」の歌の選出ならそれは当たり前のことだけど、おおよそ四十代以降の世代への偏りがあったうえでそれが起こるのは、短歌を詠む人が本当にたくさんいるということを、良い意味でも悪い意味でも痛感させられる。『新星十人』『現代短歌最前線上・下』ほどの規模感であれば、呼ばれていない人が出るのは当然だけど、一冊につき百人いるアンソロジーでこれかと。
 たくさんの詠み手が参加し、短歌史的な情報がそぎ落とされ一ページに一首フラットに短歌が並ぶ構成は、改めて現代の平等志向的な雰囲気を写し取った企画だなと考えさせられた(別に写し取ったわけではなく、史的重視型アンソロジーとコレクション型アンソロジーが交互に出版されているだけかもしれないけど)。これらのアンソロジーが実施されたことで、むしろ、というかだからこそ、先ほど例に出したような、十五人程度に絞られた若手の少数精鋭のアンソロジーを読んでみたいと私は逆に思った。そこには編著者と編集者の思惑や偏りが多分に内包されるだろうが、あえて強固な一枚岩を作ってみせるのも、反発的なリアクションを含めて重要だろう。もちろん、私の短歌がその企画に呼ばれないとしても。