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 八月八日、東京オリンピックの閉会式が行われた。この大会は、当初は東日本大震災からの復興、延期後には「コロナに打ち勝った証」と位置付けられており、そこに昭和の東京オリンピックに託された「敗戦からの復興」という位置付けが重ねられているのであろうことは、各所から指摘されている。
 こうした昭和の遺産からの再生産は、五月に埼玉県で「昭和の熱気」をテーマに改装開園したレジャー施設「西武園ゆうえんち」や、近年相次ぐ昭和中期に放送開始された特撮シリーズのリメイク作品にも見られ、昭和という時代への信頼は今も根付いているように思われる。
 マグネシウム焚くフラッシュの良き時代マリリン・モンローこちらを向けり
                          小池光
 フランキー・ヴァリ「Sherry」はあどけなく 佳きアメリカの在りし日のこゑ
                          島田修三
 夢に見たひとではなくて思い出のひとでもないという歌ありき
                          穂村弘
 「てんとう虫のサンバ」流れぬ六月に見上げていたね東京アラート
                          笹公人
 三首目までは角川『短歌』二〇二一年一月号から、四首目は『短歌研究』同五月号から引いた。それぞれ昭和期の芸能風俗を素材とし、その素材の味を支柱として一首を立ち上げている。
 小池と島田は一九五〇~一九六〇年代の輝かしいアメリカと、それを日本人が憧れ求めていた時代を掌の中で慈しむように回顧する。穂村はCMソングとして知られた曲の一節だけを過去の文脈から切り抜いたときの浮遊感を面白がり、笹は結婚式の定番とされる陽気な歌謡曲を、張り詰めていながら空虚さを露呈する現代社会との対比としてコミカルに配置する。
 これらの歌での昭和の素材の扱い方は、冒頭の例で示したような、大衆を全体的な高揚へと駆り立てたり、一方的なイメージを組み合わせて仮想現実を構築したりするそれとは全く異なり、その核には私的な感傷や気付きがある。その一方で、昭和への心寄せと信頼は、これらの歌からも素直に感じられる。
 こうした時代への心寄せと信頼は、今後、昭和以降の時代に対しても向けられることがあるのだろうか。
 セクハラはなかったことにできないよ。ようこそシベリアからの白鳥
                          北山あさひ
 激しい現実の素描と、遥かな自然・歴史の景物が同居する歌集『崖にて』を、その取り合わせに戸惑いつつ読んだ。しかし、社会への不信を持ちつつ、世界を構成し成立させているものへの深い信頼なしには生き抜かれない、時代の在りようも浮かび上がってくるように思われるのだ。