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 『短歌研究』7月号で発表された第67回短歌研究新人賞は工藤吹「コミカル」30首に決まった。ここ数年、短歌研究新人賞には興味が持てていなかったが、二○一九年までの選考委員がすべて入れ替えになったことと、タイミングよく大学の後輩が受賞したこともあって、ひさしぶりによく読み込んだ。角川短歌賞や短歌研究新人賞は短歌界隈における「M-1グランプリ」みたいなものなので、気持ちとしては毎年きちんと追いたいところではある。
 受賞作、候補作からお気に入りの歌をいくつか引く。
 背表紙が長い絵になるコミックスの三巻からはおもしろいから
 遊具でのあたらしい体勢を披露した 私たち秋の運動公園で
 ペットボトルを四本買えばついてくる子供のための軽いコップが
                         /工藤吹
 一首目、私はドラゴンボールの背表紙などを連想したが、これは別にこち亀でもジョジョでも構わないと思う。「三巻からはおもしろいから」の三巻からという数字の指定に妙に納得させられる。深夜アニメもよく三話まで観てからおもしろいかどうか判断しろと言われるが、物語の最初の盛り上がりを迎えるまでに、普遍的にそのくらいの時間を要するのかもしれない。二首目、児童の時期が終わってから遊ぶ遊具はコクがある。どんな遊具でどんな体勢を取っているのかは不明だが、各々が好きな遊具で滑稽な姿をしている人を想像すれば良いだろう。意味と韻律の両方から比較的作者の美学がみえる作だ。三首目、「軽い」が良いと思う。コンビニの企画か何かだろうが、コップの大きさや色味よりも、軽さの方に「子供のため」の本質が宿っている印象が確かにある。プラスチックのチープな感じ。
 終電が終わった後のホームにも存在する電車を待つ感じ
                         /津島ひたち
 次席から。「待つ感じ」というのは、むしろ次の電車が来ないからこそ強く感じるものなのかもしれない。不在によってより存在が際立つ。
 撮りすぎる写真 椿の葉を磨くものが時間と知りながらなお
                         /穴根蛇にひき
 受賞作以外でいちばんおもしろい連作だった。抜粋の歌には直喩の作品が多く、少し構造が単調だったが、もっとも新作を読みたいと思わされた。引いた歌は選考会でも人気の様子。他、好きな歌を引けるだけ引く。
 歳月の手を借りないで本当のわたしの力で老いていければ
                         /橙田千尋
 柴犬は二度見るやうにしてるんだ。月がこころを二度刺すやうに
                         /佐原キオ
 いつからか揺れっぱなしのパーカーの紐を帰り道で蝶にする
                         /城下シロソウスキー