歌林の会 | 時評
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 今年の現代歌人協会賞は、佐藤モニカ歌集『夏の領域』に決定し、六月二十八日、例年のとおり学士会館で授賞式が行われた。日本歌人クラブ新人賞と重賞となった。今回から、最終選考で選考委員が候補作それぞれに四段階の評価を付け、受賞作を決めることとなった。
 次点の二歌集は、川口慈子歌集『世界はこの体一つ分』、勺禰子歌集『月に射されたままのからだで』である。

  声というでこぼこに寄せるせせらぎを右手で紡ぐわがアルペッジョ
                        川口慈子
  ときどきは峠で耳を澄ますこと月に射されたままのからだで
                         勺禰子

 川口の歌集は、ピアニストの感性と、若い女性の自然体の感覚を生かして歌い、勢いのある表現が多い。勺の歌集は、社会、民俗などの対象の、知的な切り取り方に面白みがあり、方言の使用なども生き生きしていた。

  戦地なりし沖縄はけふよく晴れてけれども魂(まぶい)みな泣いてゐて
                        佐藤モニカ

 『夏の領域』は旅行者へ向けた明るい沖縄ではなく、陰影の深い沖縄像を暮らしの中で見聞きしながら切り取る。

  酔ひ深き夫がそこのみ繰り返す沖縄を返せ沖縄を返せ
  選挙終はりし町いつになくやつれたりハイビスカスの萎むのに似て

 沖縄の痛みを理解しようとする思いは随所に散見されるが、深刻にはつきつめず、出会った衝撃として詠われている。暮らす時間が比例し、その歌い方は深まることだろう。
 祖父母がブラジル移民であることや弟が噺家になったことなど、歌集にはテーマが多いが、基調をなすのは小さな命を産み育てる日常だ。

  途切れつつ風の入る午後吾子はまた樹液求むるごとく口あつ
  道なりに母子の影をおとしつつまだ一本の樹木のごとし

 授乳や、子を抱くあるいは背負う姿を詠って、独特な感性がある。植物の生命力など自然にたぐえる身体の感覚によって、子育てのうたには新しさがある。
 概括的に冷静に自分を捉える歌もあり、選評で言われた「優等生的」な面もあるが、それはバランスの良さとも言い換えられるだろう。内容の深まりに従い、言葉の選択を変えてゆく中で、払拭されていくだろうと想像できた。
 歌壇の登竜門ともいえるこの賞は今年から選考のルールを変えた。各選考委員の選評も公表され、選考の過程は見えやすくなった。新人賞には、特に伸びしろも評価した励ましの意味がある。選評には受賞歌集にも次点の歌集にも負の面も容赦なく指摘されており、そこに熱い期待が感じられた。

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