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 毎年夏、盛岡で開催される全国高校生短歌大会(短歌甲子園)は、今年二十回目を迎えた。石川啄木の顕彰と短歌振興を目的とし、今年も全国大会に二一校が出場。啄木にちなみ、歌は三行書きがルール。先鋒、中堅、大将が与えられた題を入れた歌を一首ずつ提出し、五名の審査員が票を入れて勝敗が決まる。今年の優勝は岩手県立盛岡第三高等学校。青森県立八戸西高等学校との決勝戦は例年以上に白熱した。題は「二十」。

 ロボットが
 自分で紅を差したとき
 時計は二十倍速になる
           八戸西高校 山形彩羽

 陽炎にとけて
 もう名も呼べないな
 二十四節気の夏、猛り立つ
         盛岡第三高校 髙橋こころ

 勝敗を決した大将戦の二首。科学技術の象徴である「ロボット」が意志を持ち、さらに自らを装うための「紅を差したとき」に何が起こるのか。生成AIの発達も目覚ましい昨今を鋭く、かつ鮮やかに切り取った山形作品。一方の髙橋作品が見つめているのは、古くから私たちの生活のなかにあった「二十四節気」。六つの美しい名称で呼び習わされてきた「夏」という季節の微妙な移り変わりが、もはやまったく感じられなくなってしまった現代を詠う。いずれも「今」を見つめる鋭敏な目と確かな表現力が感じられよう。なお、決勝進出が決まってから彼女たちが歌を提出するまでの時間は、二十分ほどしかない。
 この大会の特徴は、票を入れる前に審査員がそれぞれの作者に質問をし、それに答える形で、高校生たちが作歌の意図や一首に凝らした工夫を、自ら語ることである。彼らは質問を想定し、限られた時間のなかでかなり詳細なメモを用意して試合に臨む。その賜物だろう。一日目の一次リーグから二日目の決勝トーナメントに進んだ選手たちは皆、歌も質問に対する応答も、審査員団が息をのむほどに大きく成長するのである。
 彼らより一足先に歌をはじめた私たちの仕事は、このように若い歌人たちが学び、競い合い、成長してゆく場をつくり、維持してゆくことだろう。決して「ブーム」で終わらせてはならないのだ。かつてこの大会に出場し活躍した歌人には、かりんの貝澤駿一や郡司和斗もいる。
最後に、審査員特別賞を受賞した茨城県立結城第二高校の作品からも一首を紹介したい。作者は長く引きこもりを経験した後に定時制高校で再び学びはじめ、そして歌に出会ったという経歴を持つ。

 疫病に途切れてしまった思い出を
 紡ぎなおしてゆくように
 春
                 長塚仁夢

この一首は本大会で、個人に贈られる石川啄木賞を受賞した。この「春」に続く未来が、楽しみでならない。