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季刊同人誌「棧橋」が二〇一四年十月に創刊三十周年を迎え、一二〇号で終刊した。風通しのよい誌面には常に活気があふれており、質の高い同人誌として長く記憶されるに違いない。
「棧橋」の創刊は一九八五年一月である。「コスモス」の結社内同人誌という珍しい形態は、選歌なしで自由な誌面をつくろうという気運が盛り上がって実現したのだという。結社誌の選歌によって表現技術を向上させる一方で、同人誌という場で、思い切った発想による新しい歌を作ろうと考えた有志二十六人が集まったのである。終刊号に参加したのは八十五人に上る。
小島ゆかりは「終刊のことば」で、初めて長い文章や時評を書いたのは「棧橋」誌上だったことに感謝している、同誌では時に、四十八首、七十二首、九十六首という大作を発表する機会が巡ってくる。一一三号に掲載された大松の「小舟」九十六首は、初めての子を授かった父の喜びが多面的に詠われた連作で、歌集『ゆりかごのうた』の中核を成している。その歌集がこのほど第十九回若山牧水賞を受賞したことも、「棧橋」の数えきれない収穫の一つであるはずだ。
結社が大きくなればなるほど、同人が連作や評論を発表する機会は限られる。こうした結社内同人誌の試みがこれからも模索されればよいと思う。同じ悩みは結社に所属しない人にもあるだろう。新人賞応募者に「所属なし」という人が年々増えている背景には、まとまった連作を自分に課す機会、きちんとした批評を得たいという思いがあるのかもしれない。ネットプリントを含む、いくつもの同人誌はそうした欲求から生まれているのではないだろうか。
終刊といえば、超結社の同人誌「中東短歌」が創刊当初の構想通り、第三号で終刊した。二〇一三年一月に第一号が発刊されて以来、ニュースで見る「中東」の状況は複雑さを極め、いろいろな意味で日本からの距離を痛感してきた。その意味で、第三号に掲載されたシリアの短編小説家、サムーイールと齋藤芳生の対談「シリアとの距離を埋めるもの」は、文化や歴史の違いを超えて理解し合う喜びを感じさせるものだった。九・一一の捉え方がアラブ諸国と先進国とでは異なったこと、「私性」の問題はより女性作家に重く作用することなど読むと、「中東」というフィルターを通すことで、より日本の歌壇の状況がくっきりと浮かび上がってくる。
千種創一「短い歌と短い小説についての短い仮説」、三井修「『昭和万葉集』に見る中東の短歌」などの評論も充実しており、確かな存在感を示した。期間限定の同人誌もまた、自由な場の一つとしてますます増えそうだ。