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 先日今年の歌壇賞が発表され、短歌研究新人賞、角川短歌賞と合わせて今季の新人賞が出そろった。各賞の最終選考通過者には重複もみられ、そのポテンシャルの高さが思われる。またそれぞれの受賞作には傾向の違いと、あるいは思わぬ共通点も見え、興味深い。境涯性や読みの〈解釈〉の論点などを念頭に置きつつ読んでみたい。
   夜のこと何も知らない でこぼこの月にからだを大人にされる
                                  遠野 真
   破られることで命を得る手紙ちゃんと破いてもらえたのかな
 短歌研究新人賞から。一首目は現在形で詠まれ、境涯性よりも「大人にされる」その時の痛みを読み手に手渡そうとしている。そして解釈には不透明感がある。しかし、言葉のフレーズにはつよい吸引力を感じる。短歌研究二月号の小島なおの時評には非常に明晰に〈読み〉の解釈と鑑賞の定義づけがなされており納得させられるのだが、一方でこのような歌に関しては、読者にできる限り正確に〈解釈〉させる努力というものはそぐわない気がする。
 この一連は男性作者が女性の立場で詠んだ虐待に関する「境涯詠」であり、二首目の自己滅却にも通じる理の逆説性を含めて、マイノリティのスタンスにつよい魅力がある。たぶんそんな己を他者に開示したい思いはとても強いのだろう。一方、次席の歌林の会の川島結佳子は若い女性の内面の現代的な表現で、解釈されるべき努力がなされ主体の立ち位置は定まっている。対照的な作品の安定感はそこにある。
   中指にとんぼが止まった。「殺す」とあなたへ立てたこの指先に
                                  川島結佳子
   傷ついて眠れない夜は起きていて眠くなったら腕立て伏せを
                                  佐佐木定綱
 二首目は角川短歌賞次席の作者だが、川島の作品とともに事象に微妙な「逸らかし」がある。お笑いなどにも通じるが、ウイットよりはもう少し切実な現代性がこういうところに「生の陽性の反応」として滲み出ていると感じた。
   鉛筆でごく簡潔に描く地図の星のしるしのところへ向かう
                                  鈴木加成太
   そこだけが雪原の夢 プロジェクタの前にあかるく埃は舞つて
                                  飯田彩乃
 さて角川短歌賞の鈴木作品はリリカルで健やかと評され、歌壇賞の飯田作品もクールな表現力がたかく評価された。どちらも非常にクレバーな印象で、前述の〈解釈〉の問題は難なくクリアされている。
 そんな中で、角川の選考委員の米川千嘉子の「何かもっと強く刻まれる感じがほしい」という言葉が印象に残った。現代のこのバランスのよい健やかさ、かしこさに「刻む」という強烈な実感がどう共存するのか、難しくも重要なこれからの時代の課題だろう。